本書は、交渉を成功に導くための「交渉の科学」について述べたもの。著者はアメリカで交渉や人間の意思決定について学んだ人物で、その研究成果が盛り込まれている。
我々は「交渉」と聞くと、つい「交渉は駆け引き」「普遍的な交渉戦略が存在する」「生まれつき交渉力に長けた人物がいる」といったイメージを抱いてしまうが、著者はそういう認識は誤りだという。なぜなら実際の交渉においては、お互いが利益を得る「創造的問題解決」が可能なケースや、相手との人間関係を考慮しなければならないケースが存在し、決まった交渉戦略をとることが必ずしもいい結果を招かないからである。
本書の前半では、こうした交渉に関する誤解について説明した後で、交渉を「分配型交渉」「利益交換型交渉」「創造的問題解決」の3つに分け、それぞれの特性と効果的な戦術について述べている。最初に提示した金額が最終取引価格を決めてしまう「アンカリング」や、相手の譲歩を引き出すために物事をポジティブに捉えるように誘導する「フレーミング」の理論をはじめ、さまざまなテクニックを紹介しており、それぞれどのように使えば効果的なのか、ケースバイケースで論じられている。後半では、使い方によっては効果的な「きわどい交渉テクニック」や組織対組織の交渉についても論じられている。
本書は、実用書というよりは、むしろアカデミックな視点から交渉論について述べた本である。したがって、交渉のハウツーを知りたい人には若干説明が煩わしい印象を与えるかもしれない。だが、著者が言うとおり、交渉に普遍的な戦略が存在せず、ケースバイケースでその時々の交渉を考えなければならないとしたら、本書で交渉のメカニズムを学ぶことは有効だと言える。(土井英司)
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