本書はマサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクール、通称スローンスクールのビジネス誌「スローン・マネジメント・レビュー」(略称SMR)に、1998年から2001年の間に掲載された、戦略論関係の優秀論文を選んで1巻としたものである。これ1冊で、戦略論関係の最近の魅力ある論文を見渡すことができる。
似たような論文集はほかにもあるが、類書に比べたこの本の特色は、イノベーション関係の論考が充実している点だ。イノベーション論が強いのは、工科系の代表的大学であるMITのスローンスクールが出している雑誌の論文だから当然だ。ただしイノベーションとはいっても、ここで強調されているのは価値創造型のイノベーションだ。議論の多くは技法論ではなく、戦略的思考のポイントを論じたものである。
欧米のビジネススクールで出版されているビジネス雑誌は、学者向けの固い学術専門誌ではない。むしろ企業経営者をおもな読者とし、実務的で実践的な議論が中心であり、SMRもそうだ。この本に採録された論文の執筆陣は、研究面や論文執筆で著名な論客であるばかりか、コンサルティング活動でも名の通った人たちだ。実務の世界における豊富なコンサルティング経験は、本書の論考にも生かされている。
このようにすべての論文が実用性を重視して書かれているが、とはいえ複雑系や進化経済学などサイエンスの最先端トピックに触れる議論が多い。このあたりがいかにもMITらしい。ただし論文集なので、章ごとに書き手の個性が出ている。だから誰でも気軽に読み通せるといった本ではないだろう。翻訳も丁寧だがやや硬い訳文である。
本書を読めば、戦略論における最新動向を理解することができる。いつまでもマイケル・ポーターの「競争戦略論」だけではダメだということだ。それと同時に、欧米のビジネスの最前線でいま何が問題になっているかを、本書から感じとることもできる。(榊原清則)
クリエーター:マイケル・A. クスマノ、コンスタンチノス・C. マルキデス、Michael A. Cusumano、Constantinos C. Markides、グロービスマネジメントインスティテュート
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